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2015年8月13日 (木)

動かすということ・・・・明知鉄道C12 244の空気式運転復活に寄せて

2015年8月9日

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公知のとおり、明知鉄道明智駅構内において、2013年12月に復線を果たしていたC12 244の空気式による公開試運転が行われました。
試運転自体は既に7月に済ませており今回は「あけてつSLフェスタ」のメインイベントとしての公開でした。


蒸気機関車なのに圧縮空気? なんだそれ?


と思う方も見えるでしょう。

私も鉄道が趣味でありその中心は鉄道写真ですから、蒸気を吹き、煙を吐き、ドレンを吐いて走る蒸機には魅力を感じます。

一方では私も機械の整備を行ってきた技術者の端くれ、空気式とはいえども、走らせる・動かすということには大きな意義があると感じます。

明知鉄道がこれまで進んできた大きなステップ毎に、私が感じたことを今後の声援を込めて書いてみます。
なお、ここに書いたことは私個人が持ちえた知識をベースに書いたことであり思い違いや欠落があるかとは思いますが個人的意見としてご容赦ください。


1.静態保存されていた小学校から明智駅構内への復線。
同じ静態とはいえ、明智駅は今も列車が走る生きた鉄道です。
生きた鉄道に機関車が帰ってきたことが、最初の大きなステップだったと言えます。

実際の線路に載ったからには少なくとも軌道に対しての保安を確保しなければ動かせません。
ここで既に、足回りの点検が欠かせなくなっています。

また、明知鉄道利用客の目にも留まることになりその存在が良く知られるようなります。
結果として、「汽車を見に駅へ行く」という、子供の頃の言葉通りの行動が蘇ってきているのです。

(小学校から明智駅への移送時に既に見学者 2013-12-01)
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(側線留置のC12は乗降客の注目の的だった 2014-11-16)
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2.空気式での復活
エンジン式コンプレッサーを後部炭庫に積んだ空気式での復活。
安易な方法と取られるかもしれませんがとても大変なことです。

静態保存された機関車を復活させるためには純技術的には以下のフェーズが必要でしょう。
無論、これとは別に法的な要件の充足も必要になってきます。


  動態復活に必要な技術的要件

   ①エネルギー発生装置の復活・維持
   ②駆動機構の復活・維持・・・・・走行上の必須条件
   ③走行装置の復活・維持・・・・・走行上の必須条件>
   ④制動装置の復活・維持・・・・・走行上の必須条件
   ⑤保安装備の復活・維持・・・・・営業路線での必須条件
   ⑥車籍の復活・維持・・・・・・・営業路線での必須条件

2015年4月11日に空気式での先輩格である若桜鉄道が「鳥取県発 地方創生号」として、 DD16 7+12系×3+C12 167を若桜~八東を1往復しましたが
これは②~④を満たしてはいるが⑤⑥が不備な車両に対して、営業路線を線路閉塞(すなわち営業用では無い私用)とすることで問題を不問にして実現したものです。

(若桜鉄道「鳥取県発 地方創生号」 2015-04-11)
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まず、③④が既に1.の段階で最小限の整備がされ、更に②の整備と同期するように整備内容が充実していきます。
外観的には、潤滑、再研磨・削正、調整、交換などの行為によって足回りが鉄色+油で光ってくる状態でしょう。

(構内展示中に地道に行われていた整備 2014-06-01)
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(再塗装後の洗浄作業 2015-05-05)
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これらは、実際に運用・整備をしてきた国鉄OBの協力を得ながら実現可能です。とはいってもOBの年齢的にも限界に来ていると言えますが。

さて、蒸気機関車としての復活の上での最大の問題は①です。
蒸気機関車はどう動くかといえば「蒸気」で動くと言うでしょうがそれは単なるエネルギー源を駆動機構へ伝えるメディア(媒体)に過ぎません。
蒸気機関車はこのメディア(蒸気)を自らに搭載したボイラーにおいて水と燃料から生成しているのです。

このボイラーが問題なのです。

C12のボイラーは国鉄制式機としては最小の部類ですがその仕様は

   煙管式ボイラー
   伝熱面積:73.3m²
   最高使用圧力 14.0kg/cm² (1.38MPa)

と十分に大型となっており、日本の労働安全衛生法とボイラー及び圧力容器安全規則により、落成検査から定期的な性能検査、そして取り扱い者の資格が厳しく規制されているものです。

そのため長期に渡りボイラーとしての扱いが放置された機関車のボイラーについては、最新の法令に準拠した構造への再整備の上での再検査が必要であるため高額なコストが掛かることになります。


一方、蒸気機関車をはじめ全ての鉄道車両に使用されている空気圧は、10.0kg/cm² (0.98MPa)未満であり圧力容器としての規制が掛かりません。
駆動機構へのエネルギ伝達のメディアとして空気を使えばエネルギー発生装置における障壁が解決できます。
空気式はメディアを本来の「蒸気」の代わりに規制の掛からない低圧の「空気」を使うことで、機関車を動かすことを実現したのです。
空気式の蒸気機関車は駆動機構面においては、「蒸気」で動く(本当の)蒸気機関車となんら変わらないのです。

3.発進! C12
こうして、動くことになったC12。

動くことによって観光客の目もより一層楽しませてくれるのですが、もっともっと大きな効果が生まれてきています。

動かすために必要な点検・整備作業。
動かし続けるための必要なこの作業が始まりました。
単なる、ハードウエアとしての蒸気機関車の保存から、蒸気機関車を動かすための整備作業というソフトウエアが復活したのです。

(SL検修庫での直前整備 2015-08-08)


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もちろん実際の運転に伴う運転技量、誘導作業といったことも復活です。
今回の運転は中津川機関区で実際にC12の機関士をされていたOBの方が加減弁を握りました。


単なるモニュメントではなく運用・整備という人の営みも動態保存されたことで、鉄道を守るとはどういうことかが見られるようになったのです。

(手旗による誘導作業 2015-08-09)
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(公開試運転の合間の打音検査 2015-08-09)
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若桜鉄道では手動転車台も復活使用されて見学者も転向作業に参加して一体感を盛り上げています。

(子供たちがC12を回す 2011-11-27 若桜鉄道 若桜)
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こうした営みも含めた保存展示が動態保存の良さであり、この良さを生かした保存活動を今後も続けて熟成して頂きたいものです。

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